ネコノベル10

                   
                 ある真夏の晴れた日

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

今日は朝からご主人たまの様子がおかしかった。
 

いつもはお家の中に入ると怒るのに、ご主人たまの匂いのする椅子に座っても、にゃぁんにも言わないの。
 

それどころか、優しく撫でてくれたりもする。
 

…おかしい、にゃにかある。
 

そう思ったら、予感的中。
 

アタシはムリヤリ箱に入れられ、車でどこかに連れて行かれた。
 

にゃぁに?にゃぁに?どこ行くの?
 

前のご主人たまのお家から捨てられた時も、車に乗せられたアタシは慌てた。
 

まさか、また捨てられちゃうのかにゃぁ。
 

夜中に鳴いたのが悪かったのかにゃぁ。
 

もう鳴かにゃいから、おとにゃしくするから帰ろうよぅ。
 

アタシは必死で頼んだけど、ダメだった。
 

変な匂いのする建物に運ばれて、知らないニンゲンに体を押さえつけられた。
 

アタシ、しぬのかにゃぁ?
 

いやだにゃぁいやだにゃぁ、ご主人たまぁ。
 

 
 
 
…目が覚めたら、お家に帰ってた。
 

良かった、捨てられたんじゃにゃかったんだ。
 

でも、おにゃか痛いし、頭フラフラするよ?
 

ご主人たまは、避妊手術成功したって喜んでたけど、アタシは喜べないにゃぁ。
 

痛いにゃぁ痛いにゃぁ。
 

にゃんでこんにゃことするの?
 

 
 
 
それから1週間後、舌平目とささみのトロトロごはんが出てきた。
 

「抜糸祝いやね☆」
 

ご主人たまは、そう言ってた。
 

そうかぁ。
 

おにゃかの糸が取れたら、美味しいものが出るんだにゃぁ。
 

手術も悪いもんじゃにゃいんだね、ご主人たま。
 
 

 
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 ネコノベル9

 
                  ある初夏の晴れた日

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

ご主人たまは浮気性らしい。
 

今日もミルクを持って、そそくさと近くの草むらへ走って行く。
 

隠してても分かってるにゃ。
 

最近、近所に捨てられた子猫どもに会いに行ってるってことは。
 

「ごめんね〜、ピノたん。でもさぁ、この子達は自分でミルクも飲めないんだよ?」
 

言い訳にゃんて、いらにゃぁい。
 

ご主人たまの愛は、アタシ1匹に向かってるものじゃにゃかったの?
 

すっごく悔しくなって、コッソリ跡を付けてみた。
 

そしたら子猫どもが、アタシのご主人たまのお膝に登って甘えてた。
 

ち、ちょっとくらい若いからって可愛い子ぶるんじゃにゃいにゃ。
 

アタシだって、お目々をクリクリさせて見上げたら、ご主人たまなんてメロメロなんだから!
 

ムカついたので、足元の板切れで爪とぎしてやったにゃ。
 

そしたら、主人たまが慌てて振り向いた。
 

どうやらアタシがいることに気付かなかったみたい。
 

うぅ、なんか悲しいにゃぁ。

 
アタシなんて、もうどうでもいいのかにゃぁ。
 

しょんぼりうな垂れて帰ろうとしたら、ご主人たまが急いでやって来たの。

 
「ごめんよ〜。あの子達の飼い主が見つかるまでガマンしてね〜。」
 

 
 
その日の晩ごはんは、ハマチのお刺身だった。
 



 
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 ネコノベル8

 
                  あるうららかな春の晴れた日

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

ご主人たまの飼いネコになってしばらく経った。
 

今はニャンコの発情期真っ盛り。
 

アタシの周りにも、大きなオスニャンコが近づいてきて、ちょっとウザい。
 

実は内気なアタシは、他のニャンコが怖いんだぁ。
 

だから、ご主人たまの家の屋根の上に登ったりして、身を隠すの。
 

それなのに、ご主人たまったら、アタシのお腹を見て不気味な発言。
 

「…肥えたんか?新たな命か?」
 
 
それを聞いた「おかん」がキィキィ言った。
 

「早く病院連れて行き!」
 
 

 

 
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 ネコノベル7

 
                  ある春の晴れた日

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

アタシはいいことに気が付いた。
 

ねずみを獲って来ると、みんなが優しくしてくれるの。
 

ごはんをくれるニンゲンも、「親父」も「おかん」も、みぃんな褒めてくれる。
 

ねずみ狩りなんて、ニャンコのたしなみにゃのにね。
 

だから毎日毎日、ニンゲンの家に届けに行ったの。
 

そしたらね、いつもは石を投げてくる「親父」がね、さんま缶をくれたんだよ。
 

すごいねぇ、ねずみが起こした奇跡だねぇ。
 

「親父」はアタシの前にさんま缶を置いて、ニンゲンに声をかけた。
 

「お〜い、オマエのネコがねずみ獲って来たぞ。」
 

うわぁ、今、なんて言ったの?
 

ついに「親父」もアタシの魅力に気付いたの?
 

あのニンゲンをご主人たまって呼んでいいのかにゃ?
 

「ついに儂のネコって認めたんや、親父。」
 

ご主人たまが、銀のスプゥンを持って現れた!
 

うわぁ、嬉しいなぁ。
 

でも、おにゃかいっぱいだから、それいらにゃぁい。
 

ご主人たまは、さんま缶を憎々しげに見つめていた。
 


 


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 ネコノベル 6

 
                           ある冬の晴れた夜

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

今日はゴハンがとっても遅い。
 

忘れてるんじゃないかと思って、さっきからず〜っと催促してるのに、あのニンゲンがなかなか出て来てくれない。


おにゃかが減ったよぅ。ゴハン〜!ゴハン〜!ゴハン〜!ゴハン〜!ゴハン〜!
 

いっぱいいっぱい鳴いてたら、やっとお家のドアが開いて、ゴハンをくれるニンゲンが出てきた。
 

でもいつもと様子が違ってて、なんだか元気がにゃいみたい。
 

どうしたの?どうしたの?どうしたの?どうしたの?どうしたの?
 

「ごめんなぁ、今日はホントに静かにしてな。」
 

いつものように銀のスプゥンを出してくれたニンゲンの声は、ちょっと震えてた。
 

そしてポロポロ涙を流しながら、そぉっとお家に戻ったの。
 
 
 
次の日から、老いぼれワンコの姿が見えにゃくにゃった。
 
 

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 ネコノベル 5

 
                           ある冬の晴れた夜

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

アタシにゴハンをくれるニンゲンの行動パターンが、だいたい分かってきた。
 

お日様が落ちる頃に帰ってきて、そのままお家へ消えていく。
 

だから、アタシは待ってたよ〜って言いにいくの。
 

待ってたにゃぁ。
 

ゴハンちょうだい。
 

ゴハンゴハンゴハンゴハンゴ〜ハ〜ン〜!
 

結構がんばって催促したら、苦笑しにゃがらそのニンゲンが出てきた。
 

「お前…うるさいなぁ。」
 

そう言いにゃがら、そのニンゲンは自分のお家からちょっと離れた広場までアタシを連れて行く。
 

うわぁ、それは「銀のスプゥン」ですね!
 

2袋650グラム小魚入りですね!
 

早くちょうだぁい。
 

「はいはい、どうぞお食べください。」
 

ニンゲンは、アタシにゴハンをくれると、さっさと走り去った。
 

ちょっと寂しいけど、ゴハンの方が大事だもん。

 
アタシはゴハンをすっごい勢いで頬張った。
 

お腹がいっぱいににゃったから、またあのニンゲンのお家の側まで近寄ってみる。
 

ん〜?

 
もうあのニンゲンの気配がしにゃいにゃぁ。
 

どこ入ったのかにゃぁ。

 
あ!あっちに居る気がするよ?
 

灯りが点いている窓の下で、アタシはちっちゃく鳴いてみた。
 

そこ?そこに居るの?何してるの?何してるの?ザバザバ言ってるこの音はにゃぁに?
 

「…なんで儂の居場所が分かんねん。」
 

窓が開いて、ポカン顔したニンゲンがアタシの顔を見つめてきた。
 

分かるよぅ。息とかね、心臓の音とかね、あと、シックスセンス的な何かで分かるよぅ。
 

嬉しくにゃって、アタシが窓のサッシに飛び乗ったら、ニンゲンが「うわぁ!」って変な声をあげてた。
 

でもアタシも下を向いたら、大量のお湯がゆらゆら揺れててビックリして、またお外へ飛び降りた。
 

あれがお風呂っていうものか…
 



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 ネコノベル 4

 
                           ある冬の晴れた日

アタシはニャンコ。
 

名前はピノ
 

今日もターゲットのお家に忍び込み、ゴハンをいただく予定。
 

こっそりお庭から様子を窺ってたら、タイミング悪くニンゲンがお家から出て来た。

 
ヤバい!見つかったにゃ!目が合ったにゃ!
 

アタシがさっさと逃げ出そうとすると、そのニンゲンはまたお家の中へ入っていった。

 
きっと鈍器のような物を持って追いかけて来る気だにゃ。

 
命の危険を感じるにゃ!
 

アタシはお隣のお庭へ逃げ込んだ。
 

ここは木がいっぱいあるから、ニンゲン達に見つかりにくいの。
 

ガチャっと扉の開く音がして、ニンゲンの足音がこっちに近づいてくる。


アタシはなるべく体を小さくして、息を潜めた。

 
「ニャンコ〜!ニャンコ〜!あれ?もうおらへんなぁ。」

 
ニンゲンがアタシを呼んでいる。
 

だ、騙されにゃいにゃ!

 
出て行った途端、バールのような物で殴られるに決まってるにゃ。
 

アタシは更に小さくなった。
 

「あ!おった!」
 

でも見つかったみたい。

 
もうダメにゃ。
 

ヤられるにゃ。
 

ニンゲンを睨みながら後ずさる。
 

そしたら、そのニンゲンは軽くため息をついてこう言った。

 
「あんな、お前の食べてるのな、ドッグフードやねん。お前、ネコやし、腹壊したら困るでしょ?んでな、あのエサはウチのワンコのやねんな。ワンコな、年取ってデリケートになってるから、あんまりあの部屋には近付かんでほしい。分かった?」
 

そして、何かを置いてお家に帰って行った。

 
お魚のにおい。
 

ちょっと考えて、アタシはそれを食べてみた。
 

美味しかった。
 

あのニンゲンに付いて行ったらゴハンくれるのかにゃぁ。
 

今日はちょっとだけ安心して、アタシは毛づくろいを始めた。
 
 

 

 
 
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