小人と7人の姫君(仮)9

 


「 小人、いまむかし 5 」

 
 


「あ、あ、あれって何!?い、犬?犬が空飛んでんの?」
 

由姫は近付いてくる犬達の大きさに驚愕した。よく見ると角まで生えている。
 

「だから、ゲイブリエルの猟犬たちデス。地獄の犬デスね。」
 

物分かりの悪そうな人物に諭すような口調で小人が答えた。だが由姫にはそれに気付く余裕も無い。
 

「じ、地獄?!なな、何?それってアンタの仲間なわけ?」
 

「バカなこと言わないで下サイ。あんな醜悪な奴らと天使の様に可愛いボクを一緒にするナンて。」
 

小人は大袈裟に顔を覆う。
 

「アア、嘆かわシイ!短いとは言え、人間生活は貴女の澄んだ瞳を曇らスのに充分だったのデスね。」 
 

「曇ってませんッ!」
 

小人の芝居めいた言動に付き合う気は無い。 
 

「それよりどうすんの?なんかだんだん近付いて来てるんだけど。シュピーゲルも怯えてるし。」
 

怯えているのは由姫も一緒だ。
 

あの大群からは、明らかな殺気を感じる。
 

同じファンタジーな生き物でも、目の前の小人とは違う。
 

おそらく問答無用で無惨に引き裂かれるだろう…小人が。
 

由姫は少しだけイェルグリに同情した。
 

しかし、小人はどこ吹く風。何だか楽しそうにも見える。
 

「そうですネぇ。とりあえず逃げマスか?アレに捕まると、肉体ばかりか魂まで地獄に引きずり込まれマスから。」
 

イェルグリは、取ってつけた様な深刻な表情を装う。
 

「じ、じゃあ早くどっか行ってよ!私とシュピーゲルまで巻き込まれちゃうじゃない!」
 

それでも由姫は、小人の言葉に後ずさった。
 

イェルグリの態度はふざけているとしか見えないけど、上空を覆う黒い影はどんどん大きくなってくる。
 

この家に辿り着くのも時間の問題だ。
 

かわいそうに、愛犬は尻尾を下げられるだけ下げて震えている。
 

迫り来る危機感を彼なりに感じ取っているのだろう。
 

それを見て、由姫は腰の抜けそうなシュピーゲルを引っ張り、急いで玄関へ駆け込もうとした。
 

イェルグリ?
 

勝手になんとかするでしょ?
 

そう思い、由姫は小人に目もくれない。
 

だが、次のイェルグリの言葉に足が止まった。
 

「な、何言ってんの!?」
 

「ですカラ、アレは貴女を狩りに来たんデス。」

 
 
 

 
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