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儂と飼い猫ピノさまの半フィクション小説。
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メガネ小人とヒロインのナンセンスヒロイックファンタジー話…にしたいです。
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小人と7人の姫君(仮)10
「 小人、いまむかし 6 」
由姫の顔が真っ赤に染まる。
「ふざけんなーっ!!!」
「ふ、ふざけてなんかいまセン。ちょ!リードで殴ろうとスルのはやめてくだサイ。」
「うっさい!存在のおかしさから見てアンタがハンティングの目的でしよ!!なのにどうして私が狙われんのよ!」
イェルグリはたいして慌てもせず、シュピーゲルのリードを器用に避けて浮遊し続けている。
それがなおさら由姫のカンに障った。
だが、彼はそれが分からないらしい。キョトンとした顔で由姫を見る。
「う〜ん。言ってる意味が分かりまセン。僕が狙わレる?エンジェルよりもかわいらしい僕が?」
「…じゃあ私はそうじゃないってことなのかな?」
愛犬をけしかけよう。
リードを握る由姫の手に力が入る。
彼女の出す不穏な空気が伝わったのか、心持ち、小人が距離を取り始めた。
「ヤ、そういうコトではナく。」
小人が引き攣った笑顔で後ずさる。が、その顔が一瞬で凍り付いた。
「いけまセンッ!」
「きゃあ!」
轟音と閃光。そして容赦無い爆風。
その衝撃で、由姫は体ごと玄関の扉に叩き付けられる。
気絶しなかったのは不幸中の幸いだろうか。
クラクラする頭を抱え、起き上がる由姫。
「う…そ…!?」
目の前にはとんでもない光景が広がっていた。
庭の半分が吹き飛び、リビングの窓ガラスも大破している。
辺りは土煙が上がり、まともに息も出来ない。
なにか、途轍も無いエネルギーが庭を破壊したらしい。
不愉快な臭いを漂わせ、犬小屋の屋根だけが形を残して転がっている。
咄嗟に愛犬を確認する由姫。
シュピーゲルは尻尾を丸め、完全に怯えていた。
途端に湧き上がる怒り。
「なんで!意味分かんない!なんでこんなことされんの!?」
由姫は震えながら叫んだ。
「ソレは貴女が姫だからデスよ。」
淡々と答える小人。
今は由姫より、間近に迫った黒犬達に注意を払いたいらしい。
「姫って!それってあんたの頭の中の話でしょ!前世とかマジありえないし!!」
実際、こんな実害があるまでは、ちょっと面白いな、と思っていた。
小人も、空を飛ぶ犬のことまでも。
まるでお伽話の様だと。
夢うつつの出来事だと。
でも。
「いい加減、現実を認めた方がいいデスよ?
貴女はアガサ姫。
僕は貴女を守る白馬の王子様。
到ってシンプルで否定しようもない事実デス。」
小人の声が由姫を弄る。
そこには一片の冗談も含まれていないようだ。
「はぁ…」
もうここまで来たら、受け入れるしかないんだろう。
由姫は覚悟を決めた。
「じ、じゃあ守ってよ。今すぐアイツらを追っ払って!」
「それはデキマセン☆」
「ッ!!!!!!?」
小人は即答した。
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小人と7人の姫君(仮)9
「 小人、いまむかし 5 」
「あ、あ、あれって何!?い、犬?犬が空飛んでんの?」
由姫は近付いてくる犬達の大きさに驚愕した。よく見ると角まで生えている。
「だから、ゲイブリエルの猟犬たちデス。地獄の犬デスね。」
物分かりの悪そうな人物に諭すような口調で小人が答えた。だが由姫にはそれに気付く余裕も無い。
「じ、地獄?!なな、何?それってアンタの仲間なわけ?」
「バカなこと言わないで下サイ。あんな醜悪な奴らと天使の様に可愛いボクを一緒にするナンて。」
小人は大袈裟に顔を覆う。
「アア、嘆かわシイ!短いとは言え、人間生活は貴女の澄んだ瞳を曇らスのに充分だったのデスね。」
「曇ってませんッ!」
小人の芝居めいた言動に付き合う気は無い。
「それよりどうすんの?なんかだんだん近付いて来てるんだけど。シュピーゲルも怯えてるし。」
怯えているのは由姫も一緒だ。
あの大群からは、明らかな殺気を感じる。
同じファンタジーな生き物でも、目の前の小人とは違う。
おそらく問答無用で無惨に引き裂かれるだろう…小人が。
由姫は少しだけイェルグリに同情した。
しかし、小人はどこ吹く風。何だか楽しそうにも見える。
「そうですネぇ。とりあえず逃げマスか?アレに捕まると、肉体ばかりか魂まで地獄に引きずり込まれマスから。」
イェルグリは、取ってつけた様な深刻な表情を装う。
「じ、じゃあ早くどっか行ってよ!私とシュピーゲルまで巻き込まれちゃうじゃない!」
それでも由姫は、小人の言葉に後ずさった。
イェルグリの態度はふざけているとしか見えないけど、上空を覆う黒い影はどんどん大きくなってくる。
この家に辿り着くのも時間の問題だ。
かわいそうに、愛犬は尻尾を下げられるだけ下げて震えている。
迫り来る危機感を彼なりに感じ取っているのだろう。
それを見て、由姫は腰の抜けそうなシュピーゲルを引っ張り、急いで玄関へ駆け込もうとした。
イェルグリ?
勝手になんとかするでしょ?
そう思い、由姫は小人に目もくれない。
だが、次のイェルグリの言葉に足が止まった。
「な、何言ってんの!?」
「ですカラ、アレは貴女を狩りに来たんデス。」
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小人と7人の姫君(仮)8
「 小人、いまむかし 4 」
これ幸いと、由姫は急いでリビングから飛び出した。
いつまでもメルヘン小人の相手なんてしてらんない。
「シュピーゲル、どうしたの?」
由姫は中型の雑種に呼び掛けたが、彼は無視して吠え続けている。
普段は可愛らしいその顔が、恐怖で歪んでいた。
「…これはいけまセン。どうもボク達は囲まれてしまったようデス。」
由姫の後にひょっこり出て来たイェルグリが、空を見上げ苦い表情を浮かべる。
「は?!」
「この家を中心に500メートル範囲が妖精の輪の中デス。おまけにゲイブリエルの猟犬がボク達を狙ってマスね。」
「ゲイブリエル?は?何?日本語喋ってくんない?」
シュピーゲルを宥めながら、由姫はイェルグリを見上げた。
また訳の分からない単語を並べ立てる小人にウンザリする。
でも…
由姫は急に愛犬を抱きしめた。
なぜか空気が変わった気がしたのだ。
ピリピリと肌を刺すような感覚。
ゆっくりと毛が逆立つ不快感。
そしてこの閉塞感。
由姫が住む地域は、割りと大きな家が多く庭も広い。
なので今まで窮屈に思ったことなど1度もなかった。
だけど、今。
「なんか…気持ち悪い」
胃を、肺を、心臓をギリギリと締め上げる圧迫感が、由姫を苛む。
「これはいけまセンねぇ。」
イェルグリは、膝をつく由姫をほっといて、空を見続けている。
由姫はそんな小人の態度にムカついた。
仮にも婚約者である自分を心配している様子は微塵も感じられない。
いや、婚約者って認めてはいないけど。
それでもそれ相応の態度ってものがあるんじゃないのか。
人を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、これはないんじゃないの?
そんな、自分でもよく分からない怒りが由姫を支配する。
「…何がいけないのよ。ちゃんと説明しなさいってば!」
そう言って、目の前をふよふよ漂っている小人を握り潰そうとした瞬間、彼が振り返った。
「来ましタ!」
「だからな…」
言いかけて由姫は目を見張った。
小人の小さいトンガリ帽子の向こう。
真っ青な空に、大量の黒点。
やがてそれは、大きな大きな犬の形を取っていくのだった。
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小人と7人の姫君(仮)7
「 小人、いまむかし 3 」
「もう、本当に勘弁してくだサイ」
小人が半泣きで訴えた。
微妙にメガネフレームが歪んでいるところから、バトルの凄まじさが推測出来るだろう。
まあ、一方的な戦いだったけど。
「…なんで無抵抗なのよ?」
肩で息をしながら、由姫は尋ねた。
「ハイ、見とれてました。」
再びハエタタキを振り上げる。
「やぁ、本当に!
仕種のなにもかもがアガサ本人デス。
前世のアナタは襲い来る敵を愛刀で凛々しく薙ぎ払ってマシたが、ハエタタキを振るう今のアナタも同じくらい麗しいデス。」
イェルグリは飛来する武器から器用に身を逸らしつつ、由姫の周りを跳ね回る。
ふと由姫は、この小人が気味悪くなった。
突然現れて、由姫の前世を連呼するコイツはいったい何がしたいのか?
前世とか言われたって、その記憶がない以上、由姫は由姫だし、小人が望むようなことに従えるわけがない。
そうなると…
確か、昔話に有無を言わさず妖精や小人に掠われてしまうものがあるけど。
それは困るかも。
よし!
「先手必勝ォォォォォ!!」
由姫は金切り声を上げて、小人をブチのめしにかかった。
こんな奇妙な生き物、1匹だけでもお腹一杯なのに、さらにうじゃうじゃいる場所になんて行ってやるもんか!
分け入っても分け入っても小人、なんて絶ッ対イヤ!
ハエタタキは低い音を立て小人に命中した。
「ッ!?」
いやそれは、小人の頭上スレスレで止まっていた。
さっき由姫の手を弾いた不可思議な力と同じ物の様だ。
「う〜ん…今のはお遊びにスルには厳しいデスね。」
メガネのせいで表情は窺い知れないが、声には明らかに不興の色がある。
自然、由姫の背筋が寒くなった。
こんなに小さいのに、巨大な肉食動物を目の前にしているような気がするのはどうしてなんだろう?
「あ…えと…」
由姫が口を開きかけた瞬間、庭の飼い犬が狂った様に吠えだした。
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小人と7人の姫君(仮)6
「 小人、いまむかし 3 」
「ボクの名前はイェルグリ。ハノーバー国第4王子デス。」
でっかく出た!
由姫は思わずコーヒーを吹き出す所だった。
「え…っと?お、王子様なんだ。え?どこの国?ヨーロッパ?」
「イエ、ボクの国はヨーロッパにはありまセン。
レミュール大陸という、人間界とは半次元ズレた場所に存在します。」
イェルグリがニコッと笑う。
「はぁ…
で、その王子様がどうして私のフィアンセなの?昔、お会いしましたっけ?」
もちろん、由姫の記憶には小人の小の字もない。
「ハイ。でも出会ったのは遠い昔デス。アナタの前のアナタ。」
懐かしむ様な顔で指を組むイェルグリを、由姫は胡散臭く見つめた。
「私の前の私って…
前世ってこと?」
小人がコクンと頷くと同時に、由姫は鼻を鳴らして立ち上がった。
「悪いけど、その手の話を信じられる程、純真でもないしマヌケでもないんだけど。
何か他に目的があるんじゃないの?
政府に口出し出来る小人がいるんなら、悪徳商法に荷担する小人がいてもおかしくないもんね。」
「し、信じてくだサイ!!」
つまみ上げようとする由姫の手を避けて、イェルグリが抗弁する。
「他意はありまセン。本当なんデス。
第一、騙すならアナタの様な小娘じゃなく、お金持ちのマダムを狙いマスよ!」
「うっ!そ、それはそうなんだけど。」
イチコロです、と得意げに胸を張る小人を前に、由姫は頭を抱えた。
確かに一介の女子高生を騙すよりも、その方が効率がいい。
だからって、突然現れたこのメガネ小人のことを信じることもちょっと…
「やっぱりアナタは、我が愛しのアガサ姫の生まれ変わりデス。」
イェルグリがうっとりとした表情で、由姫を見上げた。
「その悪人を蔑む様な目。そのうたぐり深さ。
自分が納得いくまで人を信じない、その頑なさ。
アガサもそうでした。
美しい外見に惑わされて、どれだけの者がボロボロにされたコトか!
容姿は違えど、アナタはボクの姫デス!」
感極まって両手を広げて飛び込んでくる小人に、由姫はハエタタキで応えた。
小人と7人の姫君(仮)7へ。
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小人と7人の姫君(仮)5
「 小人、いまむかし 2 」
も、いいや。
とにかく話を聞いてあげよう。
由姫は、淹れたてのコーヒーを、メガネ小人のカップに注いでやった。
おもいっきり熱いのを。
「で?」
純真無垢な笑顔を浮かべて、メガネ小人を促す。
コクリと頷いたメガネ小人は、カップに口をつけ、そしてそれを一気に吹き出した。
ギロリと由姫を睨みつけたが、彼女はそ知らぬ顔だ。
「ん?」
由姫は、これ以上無いというくらいの極上の笑みを浮かべている。
「…貴女は、意地悪デス。」
世界中の苦難を背負った様な顔をして、メガネ小人はカップを遠ざけた。
「こんなヒトが、ボクのフィアンセなんて、信じられません。」
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
今度は由姫が狼狽する番だった。
開いた口が塞がらないとは、こういうことか。
「い、今、何て?」
どうか聞き間違いでありますように。
由姫は、全身全霊全力で、神様ホトケ様ご先祖様にお願いしたが、無駄だった。
「だから、貴女は、ボクの、フィアンセ、デス。」
絶対に聞き間違いの無い様に、一文節ごとに区切ってくれるメガネ小人の親切が、むしろムカつく。
イ、イヤ過ぎる…
由姫は平静を保とうとしたが、顔が青くなっていくのが分かった。
ちょっと待ってよ?
100歩譲って、私がコイツのフィアンセだとして…
違う違う違う、そんな約束した覚え無いし。
え?コイツ、何?勝手に決め付けてくれちゃってんの?
私の承諾なく?
え〜、だとすると、ここでのんびりお茶してるよりも、病院行った方がいいよね。
ちょっと精神的にアレかもしれないし。
小人だし…小児科?
って、ちょっと待ってよ。
これって現実なんだよね?
もし、これが私の幻覚とか妄想だとかだったら…
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
そんなの悲しすぎる。
いくら今、彼氏がいないからって、そんな妄想する自分が悲しすぎる!
頭を抱えて悶絶する由姫を、メガネ小人が不愉快そうに眺めた。
さっきまでとは違う、冷たい目だ。
「そろそろ、落ち着いてくだサイ。
そっちにも色々言い分があるとは思いマスが、
話が進まないのでちょっと静かにしてもらえマスか?」
小人の声のトーンが心持ち低くなった。
それと同時に、部屋の空気まで冷たくなった気がする。
由姫は、メガネ小人の雰囲気が変わったことを察し、大人しくなった。
なんか…逆らえない。
ムカつくけど、逆らえない。
ギュっと胃の辺りを押さえ、由姫は姿勢を正す。
このメガネ小人が本物だろうと幻覚だろうと、しばらくは彼の話に耳を傾けるしか無い様だ。
小人と7人の姫(仮)6へ。
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