小人と7人の姫君(仮)8
「 小人、いまむかし 4 」
これ幸いと、由姫は急いでリビングから飛び出した。
いつまでもメルヘン小人の相手なんてしてらんない。
「シュピーゲル、どうしたの?」
由姫は中型の雑種に呼び掛けたが、彼は無視して吠え続けている。
普段は可愛らしいその顔が、恐怖で歪んでいた。
「…これはいけまセン。どうもボク達は囲まれてしまったようデス。」
由姫の後にひょっこり出て来たイェルグリが、空を見上げ苦い表情を浮かべる。
「は?!」
「この家を中心に500メートル範囲が妖精の輪の中デス。おまけにゲイブリエルの猟犬がボク達を狙ってマスね。」
「ゲイブリエル?は?何?日本語喋ってくんない?」
シュピーゲルを宥めながら、由姫はイェルグリを見上げた。
また訳の分からない単語を並べ立てる小人にウンザリする。
でも…
由姫は急に愛犬を抱きしめた。
なぜか空気が変わった気がしたのだ。
ピリピリと肌を刺すような感覚。
ゆっくりと毛が逆立つ不快感。
そしてこの閉塞感。
由姫が住む地域は、割りと大きな家が多く庭も広い。
なので今まで窮屈に思ったことなど1度もなかった。
だけど、今。
「なんか…気持ち悪い」
胃を、肺を、心臓をギリギリと締め上げる圧迫感が、由姫を苛む。
「これはいけまセンねぇ。」
イェルグリは、膝をつく由姫をほっといて、空を見続けている。
由姫はそんな小人の態度にムカついた。
仮にも婚約者である自分を心配している様子は微塵も感じられない。
いや、婚約者って認めてはいないけど。
それでもそれ相応の態度ってものがあるんじゃないのか。
人を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、これはないんじゃないの?
そんな、自分でもよく分からない怒りが由姫を支配する。
「…何がいけないのよ。ちゃんと説明しなさいってば!」
そう言って、目の前をふよふよ漂っている小人を握り潰そうとした瞬間、彼が振り返った。
「来ましタ!」
「だからな…」
言いかけて由姫は目を見張った。
小人の小さいトンガリ帽子の向こう。
真っ青な空に、大量の黒点。
やがてそれは、大きな大きな犬の形を取っていくのだった。
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