小人と7人の姫君(仮)5

  
 「 小人、いまむかし 2 」
 
 
も、いいや。
 
とにかく話を聞いてあげよう。
 
由姫は、淹れたてのコーヒーを、メガネ小人のカップに注いでやった。
 
おもいっきり熱いのを。
 
「で?」
 
純真無垢な笑顔を浮かべて、メガネ小人を促す。
 
コクリと頷いたメガネ小人は、カップに口をつけ、そしてそれを一気に吹き出した。
 
ギロリと由姫を睨みつけたが、彼女はそ知らぬ顔だ。
 
「ん?」
 
由姫は、これ以上無いというくらいの極上の笑みを浮かべている。
 
「…貴女は、意地悪デス。」
 
世界中の苦難を背負った様な顔をして、メガネ小人はカップを遠ざけた。
 
「こんなヒトが、ボクのフィアンセなんて、信じられません。」
 
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
 
今度は由姫が狼狽する番だった。
 
開いた口が塞がらないとは、こういうことか。
 
「い、今、何て?」
 
どうか聞き間違いでありますように。 
 
由姫は、全身全霊全力で、神様ホトケ様ご先祖様にお願いしたが、無駄だった。
 
「だから、貴女は、ボクの、フィアンセ、デス。」
 
絶対に聞き間違いの無い様に、一文節ごとに区切ってくれるメガネ小人の親切が、むしろムカつく。
 
イ、イヤ過ぎる…
 
由姫は平静を保とうとしたが、顔が青くなっていくのが分かった。
 
ちょっと待ってよ?
 
100歩譲って、私がコイツのフィアンセだとして…
 
違う違う違う、そんな約束した覚え無いし。
 
え?コイツ、何?勝手に決め付けてくれちゃってんの?
 
私の承諾なく?
 
え〜、だとすると、ここでのんびりお茶してるよりも、病院行った方がいいよね。
 
ちょっと精神的にアレかもしれないし。
 
小人だし…小児科?
 
って、ちょっと待ってよ。
 
これって現実なんだよね?
 
もし、これが私の幻覚とか妄想だとかだったら…
 
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 
そんなの悲しすぎる。
 
いくら今、彼氏がいないからって、そんな妄想する自分が悲しすぎる!
 
頭を抱えて悶絶する由姫を、メガネ小人が不愉快そうに眺めた。
 
さっきまでとは違う、冷たい目だ。
 
「そろそろ、落ち着いてくだサイ。
 
 そっちにも色々言い分があるとは思いマスが、
 
 話が進まないのでちょっと静かにしてもらえマスか?」
 
小人の声のトーンが心持ち低くなった。
 
それと同時に、部屋の空気まで冷たくなった気がする。
 
由姫は、メガネ小人の雰囲気が変わったことを察し、大人しくなった。
 
なんか…逆らえない。
 
ムカつくけど、逆らえない。
 
ギュっと胃の辺りを押さえ、由姫は姿勢を正す。
 
このメガネ小人が本物だろうと幻覚だろうと、しばらくは彼の話に耳を傾けるしか無い様だ。
 
 
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